Zeinab

Introduction

あなたはグループのダンサー達が即興でバラディーを踊っている姿を見たことがあるでしょうか。おそらくないでしょう。それはただ単に存在しないからです。一方「シャルキー」はグループによる振り付けが多々存在し、実際のところ「ラクス シャルキー」が踊られ始めた当初は沢山のバックダンサー達が存在しました。(ビデオ ”THE STARS OF EGYPT“® を参照)。それではバラディーとは一体どういったものなのでしょうか。

カイロのとある裏通りを歩いているところを想像してみて下さい。古来より様々なミュージシャン、ダンサー、そしてエンターテイナー達で溢れかえっているかのMohammed Ali通りでなくても結構です、それでは少しありきたり過ぎるでしょう。Haret Zeinhomという場所にしましょう、カイロのEl Sayeda Zeinab地区に位置します。しかしここにはどういった人々が住んでいるのでしょうか。。。?

それは今から200~300年前、おそらくそれよりもずっと昔に移り住んできた人々です。El Mahalla, El Kobra, Alexandria, Luxor, Aswan, Asyout, Quena, Banha, Damanhour, Domiat, Sohag….といった様々なエジプトの街より移住してきたのです。なぜ彼らは移住してきたのでしょうか。それは生産物を取引したり、より良い仕事に就くためだったのです。

今日、彼らは特別な存在となっています。都会の人たちとは違いますが中には大変教養があり彼らの子孫にも教養を与え続ける人々もいます。現在では医者、建築家、弁護士、軍人、大企業経営者、または政府関連の仕事といった職についている人達が沢山いるのです。彼らは何世代かに渡り都市生活の一部となりつつありますが、自分たちのルーツに大変誇りを持っており常に深く結びついているのです。出身地であるふるさとを彼らは常に「HOME」と呼んでいます。彼らが「EL BALAD」に帰ると言う時は、自分の田舎、ホームタウンのことを指しているのです。

アラビア語でBALADIとは私の田舎、ホームタウンという意味です。しかし”SOPHISTICATED(=洗練された)”都会の人々にとってBALADIとは、地方産・田舎出身者の故郷・単なる田舎者・ファッションセンスが悪く粗野な言葉使いをする人達といった意味合いを持っています。(ところでSophisticatedとは「不誠実な」「虚偽の」という定義付けをしている辞書もあります)。「うわっ、これってまさにBALADIだわ」とけなす都会人もいるでしょう。

それではこれらBALADIの人々の生活を覗きこんでみましょう。

一人の若い女の子を想像してみてください。彼女は日ごろ毎日勉強に打ち込んでいます。彼女に期待されているもの、彼女が人生で望んでいるもの、彼女とこの世のつながり、それに対する使命。。彼女の名を「ゼイナブ(Zeinab)」と呼ぶことにしましょう。

ゼイナブの家庭はお金持ちとは程遠く、Haret Zeinhomという貧しい地区に住んでいます。父親は安い賃金で工場勤めをし、家族を十分に養うことができません。家族構成は父親、母親、そして妹一人と23歳と25歳になる兄がいます。ゼイナブは3番目で18歳でとても成熟しており、彼女が見せるたった一つの笑顔、そしてその横目から見つめられた時はつい心を奪われてしまうのです。長い黒髪、そして満月のように微笑みながら見下ろす表情。家庭の伝統を大切にする思いは単にしつけられたものだけでなく、これを読んでいる皆様同様、世間からの評判・名誉・敬意といった地位に対して大変神経質になっている兄たちによって常日頃から叩きこまれたものなのです。自尊心、そして全ての人々から敬まれること。これはBALADIの人たちが大切にしていることであり、彼らに共通することなのです。

Part 1

さてここであなたは、”兄弟や男性が女性をコントロールするの。。??”等々、顔をしかめているかもしれません。しかしその前に一つだけとても重要な質問を私に聞いてみて下さい。

Q)エジプトやアラブの男性にとって女性とはどういう存在なのでしょうか。

  1. A) エジプト男性にとって女性とは母親、姉妹、娘、叔母、祖母、従姉妹、婚約者、妻、もしくは仕事場の同僚の立場に当たる人だったりするでしょう。エジプトの男性はこれら女性に対し決してNOノーと言うことはありません。彼女たちが彼らの生活をすべてコントロールしているのです。男性が食べるもの、着るもの、寝る場所も彼女らが決め、彼女たちが理想とする仕事にまでありつかせ、そして彼らの結婚相手までも決めるのです。

家族の中でも女性陣に嫌われている相手と結婚してしまう気の毒な男性も沢山いるのです。それはまさに地獄のようなものです。私の兄は30年前にこの様な結婚をしましたが、後悔の日々を送っています。しかし女性たちは日頃の行いに対し良き女性であるためにそれぞれのモラルを持ち合わせています。妻たちはみんなから認められるような長所、クオリティーをもっていなければなりません。彼女らは男性達にとって常に特別なエージェントのような役割を果たし、世の女性たちは男性に何を望んでいるかといったことを彼女達のやり方で説得するのです。

不満を言っているわけではありませんが、エジプトの女性によってフルにプレイされるこのチェスのようなゲームに私は興味があるのです。それはまさに人生ゲームなのです。

私自身がカイロでまだ若かったころ、タレックというドラマーだった親友がいました。私たちはとても教養のある(おっと!)上級クラス家庭の出身でした。私の両親はパーシャ(高官の尊称)で映画関係の業界に勤めており、彼の両親はKhan El Khaliliのとてもお金持ちなダイヤモンドやゴールドの商人でした。ある日タレックと一緒にEl Hosseinに行った時のことです。私たちはあるBALADIの女性の後ろを歩いていました。彼女は28歳くらいだったでしょうか、私たちは16か17歳でした。

彼女はゆったりとした長いガラベーヤを着ていたのですがメラヤ(身体を巻きつける黒くて大きなベールのような物)を巻いているのため、彼女の「コカコーラ」つまり、彼女の体型がものの見事にしっかりと見えてしまうのです。彼女の後姿を見ていると、まさに2匹のイタチたちが袋の中で戦っているかような動きにも見えました。そこでタレックと私はマクスーンのリズムを彼女の動きに合わせてリズムカルに歌い始めました。「ドゥ タッタ ドゥンタッ」。。。そして少しばかり歌った後に吹き出してしましました。しかしこの後に起こったことを私は一生忘れないでしょう。この人里離れた地で彼女以外見る価値のある女性はいない、といった風格で歩いていたあの彼女の姿を。彼女からすれば自分がまさにその女性だったのでしょう。尊大で強く生き生きとした姿はまたとても上品でもあり、完璧なフェミニンパワーに満ち溢れていたのです。これがゼイナブだと想像してみてください。

さてゼイナブの妹スアッドもそろそろ結婚することとなり、ゼイナブは自身の結婚式の時よりも人生で一番幸せな日だと感じているかもしれません。彼女にとって今や家族に対する勤めは終わり、両親たちも自分たちの人生を楽しみ始める頃となりました。このような夜に彼女がダンスをする姿が想像できないでしょうか。ヒップドロップをする姿が。それも公衆の前でです。

このような場でフェミニンさを誇示しすぎず、夫にも恥をかかせない程度に今日までの伝統を守りながら一体どうやってダンスをすればよいのでしょうか。またその夫というのも家族、もしくは近所中から尊敬されたライオン的な存在であり、毎日まじめに働き家族を養い彼女にお給料をもってくるのです。彼女は少しずつゆっくりとした動きで踊らないといけないでしょう。ウードに合わせた小さなタクシーム、少し最新的で言うならアコーディオンやサックス、さらに現代的であったらキーボードに合わせて踊るのが一番いい方法でしょう。

一箇所に留まりながら非常に自制した小さな動きで、しかし音楽をフルに感じ表現しなければならないでしょう。長い響きを聞いたら、ナイルの岸沿いに生える竹のリードの奏でに合わせその長さを表現する。そよ風の力に合わせながら揺れ動く。一方で逆に短く波立つような音、小刻みのような音を聞いたらそれに合わせシミーをする。

竹製のリードはウードとも呼ばれ、タキシームの序奏はその名前がウードに起源しています。実際タキシームにはかつてウードの楽器も使われていたのです。そのためAWWADY(アワーディ)と呼ばれます。この箇所はマワール(自由でリズムがなくノスタルジックな歌)といった感じです。

Part 2

しかし観衆としてはゼイナブがエネルギー全開で踊っている姿を見たがることでしょう。場が和やかになるにつれ、リズムも少しずつ導入されていきます。タキシームが次第に消失していきオープニングの主音へと入っていきます(出だしの音階)。そして器楽家とドラマーによるquestionとanswerの部分へと入ります。このquestionとanswerの部分は両者とも同スピードで一つのリズムの中に収まり、まるでずっと続くかのようにQ & Aのスタイルがなされていきます。メロディーは2アンド3、ドラムは4アンド1と続きそれが4回ずつ、もしくは8回ずつ繰り返されます。ライオン界の中でも特にライオン的存在である夫を含めた観客が平穏にしている限り、リズムはゼイナブを更なるダンスへ導いていくかのように続いていきます。そしてマクスンリズムへと移り変わっていくのです。questionとanswerの部分はミーアッタ(Me-Attaa)と呼ばれます。ミュージックとリズム箇所の崩壊を意味しています。

リズムが確立されてくるとゼイナブは保守的かつ少々遠慮がちな姿を保ちながらも独自のフェミニンさと官能性を表現しながら踊っていることでしょう。ミュージシャン達が良しと思った頃には、今までと違ったタイプのquestionとanswer箇所(ミーアッタ)へと入っていきます。今回は更に短く早く演奏され、それはこの後に早いリズムが続くということを示しているのです。

その後アップテンポなマクスンへと入っていきます。その頃ゼイナブは「たかが妹の結婚式ではないか」と全ての抑制力から己を解放し、イライラするほど静寂な世界にいる夫を熱狂的な世界へと連れ出すのです。そう、それは何も気にしなくてもよい熱狂に満ちた世界です。彼女は蜂蜜のような甘い蜜を知っているのです。その小さな指で夫を包みこむ甘い蜜を。唯一無二のダンスステップ、まさに真の伝統的で全エジプト女性に知られている腰の動きで表現していきます。(HabibiマガジンのHOSSAM箇所を参照して下さい。そこに詳しく書いてあります)。そして結婚式はこの上ない熱狂に包まれていきます。ここではエジプトフォークの人々へ向けノスタルジックな音楽が演奏されます。

ミズマーの音です。2&4のアクセントのように聞こえます。

4/4 1 2 3 4 | 1 2 3 4
  Tiit Toot Teet Teit

この箇所はTET(テット)と呼ばれます。

TET(テット)はしばらくの間続きます。しかし根本的なことはBALADIの人々が彼らの故郷を回想することなのです。彼らのルーツ、田舎、農場、そしてそこでの農場生活、ファラヒー(=農民たち)の生活スタイルに思いを馳せること。さてここで再びミーアッタの箇所へと入っていきます。しかし今回のQ&Aは少々早めのマクスーンからファラヒリズムを引き出していくために少しずつスローテンポになっていきます。(エジプトではこの引き出していくことをマグルール(Magrour)と呼びます)。これはファラヒリズムにおいて最も重要なことなのです。

ここではエジプシャンウォークが主流となります(シミーウォークとも言います)。またTET(テット)もファラヒの中で演奏されます。

ショーは十分に続いてきました。夫はあばら骨が破裂しそうなほど大いに笑い、嫉妬など全くしていないかのようにふるまっていることでしょう。ミュージシャン達は人々をダンスと音楽の狂乱の世界へと導き、また同時にゼイナブの精神と正当性を夫へ訴えてきました。いよいよここにきて平穏な世界を取り戻さなければなりません。彼女がここで急に立ち止まったら人々は興奮状態のままでしょう。そこでミュージシャン達はオリジナルのAwwady Taqsim(アワディー タキシーム)まで少しずつスローダウンしていき、やわらかく音を止めるのです。このようにしてBALADI女性によるBALADIダンスはなされるのです。

ナイトクラブなどのダンスショーではプログラムに多彩さが必要とされるため、BALADIはほぼ毎回組み込まれています。それではキャバレーダンスとは一体どんなものなのでしょう。基本的にキャバレーとはRAQS SHARQI(ラクス シャルキー)のことです。ナイトクラブなどでは2ピースのコスチュームのダンサーによる洗練された序奏を行っています。しかしBALADIの女性がそういったキャバレースタイルのコスチュームを着て踊ることはありません。これはシャルキーなことなのです。(沢山の人たちが2ピースのものをクラシカルなコスチュームだと考えていますが、これはナイトクラブに浸透した比較的新しい発想でありどの程度肌を見せて良いかは法律によって定められ、ラクスシャルキーのダンサーたちによって誇示されています。彼女たちはほんの少しのチャンスがあれば想像している以上に露出するのですることもあるのです)。それからステージを降りTHOUB(スーブ)と呼ばれるワンピースドレス(BALADIの服装)に着替えBALADIもしくはフォークダンスを踊るのです。その後はBALADIかSAAIDI(サイーディ)へと変わり、そしてまたもやBALADIへ。すべてがBALADIに導かれるのです。そして最後にドラムソロ、エンディングへと続きます。

どんなミュージシャンでも良いのでBALADIの曲をチェックしてみてください。どんなレコーディングでもどんなダンスビデオでも結構です。そして以上のことが当てはまっているか確認してみて下さい。

今日のエジプトBALADIダンス界で誰がベストか知りたいなら、それはまずルーシーでしょう。それまではナグワ フォアドがEl Baladi Youkalという慣用句のようなものでした。El Baladi Youkalは街の売り子たちが地元の特産品だといって呼びかけるまさにBALADIでご当地グルメのようなものです。ゼイナブもその一つなのです。そんな彼女に盛大な拍手を。

愛を込めて

ホッサム ラムジー

Translation by Tokie Ashton